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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)4262号 判決 1958年10月23日

事実

原告は請求原因として、被告金宮光岩は昭和二十八年四月大原国男を講元とし、同人を含む講員十五名をもつて構成する頼母子講にその講員の一人として加入したが、その契約条項は次のとおりであつた。

1  総口数 十五口

2  金額 一口金三万円

3  期間 昭和二十八年四月十四日から昭和二十九年六月十四日迄

4  給付金受領者の決定 毎月十四日会合を開き、利息の率による入札の方法によつて決定

5  給付金の返済 落札者は、債権者となる講元に対し落札の翌日から毎月十四日限り金三万円宛を掛戻すこと

しかして、被告金宮光岩は昭和二十八年五月十四日開かれた会合において利息月一万二千円の割合による入札によつて給付金受領者となり、金二十三万四千円を受領したので、約旨に従い、これを講元である大原国男に対し翌六月から昭和二十九年六月まで毎月十四日限り金三万円宛合計金三十九万円を掛戻すべき債務を負うに至つたが、被告金宮は右のうち金二十一万円を弁済した。

一方大原国男は、昭和二十九年秋頃原告に対する四十四万八千三百円の債務の弁済に充てるため、前項頼母子講掛戻金債権の残金十八万円を原告に譲渡したので、被告金宮は昭和三十年二月十四日原告に対し、右債務に基いて給付すべき金銭をもつて、被告張壬生との連名をもつて消費貸借の目的となすことを約し、利息を附せず昭和三十年七月から昭和三十一年十二月まで毎月末日限り金一万円宛を持参支払うこととしたが、被告らが右割賦弁済を一回でも怠つたときは期限の利益を失い、残額を一時に請求されても異議がない旨の約定を附した。しかるに、被告らは右金員の支払をしないので、原告は被告らに対し、それぞれ右元金の二分の一である金九万円宛及びこれに対する支払済までの年五分の割合による遅延損害金の支払を求めると主張した。

被告らは抗弁として、頼母子講掛戻金債権は本来譲渡の許されないものと解すべきであるから、債権譲渡は効力を生せず、従つて準消費貸借契約も成立しない。仮りに前記準消費貸借契約において被告らのなした支払義務の承認が有効であるとしても、被告らとしては頼母子講掛戻金債権が譲渡の許されないものであることを知らないで前記約定をしたものであり、右は契約の要素に錯誤があることに帰するので、右準消費貸借契約は効力を生じないものであると主張した。

理由

被告は、頼母子講掛戻金債権は本来譲渡を許されないものであると主張するが、頼母子講の講元の講員に対する掛戻金債権は必ずしも譲渡を許さないものではなく、相当の対価を得ている場合または未落札者全員の同意を得た場合であれば、これを第三者に譲渡することを許されるものと解すべきところ、証拠によれば、本件頼母子講は、講員の営業資金の融通をはかる目的をもつて大原国男によつて企てられたものであることは明らかであり、大原国男は、はじめ講元として掛戻金債権の取立につき債権者となつたけれども、昭和二十八年十月頃以来行方不明となつたため、妻である金順位がその講元としての世話を引き受け、被告金宮光岩の講元に対する掛戻金債務十八万円の取立のため、これを原告に譲渡し、その対価として別に自己が講元として原告に対して負担する掛金返還債務四十四万八千三百円のうち金十八万円相当額を消滅せしめ、残額金二十六万八千三百円の返済については証書を差入れたことを認めることができる。この法律関係において金順位は、別に講元として負つている掛金返済債務四十四万八千三百円のうち金十八万円を、本件頼母子講の犠牲においてその支払を免れるべきいわれがないから、法律上は原告の金順位に対する別口頼母子講の掛金返還債権のうち金十八万円が本件頼母子講のため講元引受人たる金順位に譲渡されたものと認めるべきであり、その価額が対当額である限り特別の事情のない本件では相当の対価をもつて譲渡されたものというべきであるから、金順位の原告に対する本件掛戻金債権の譲渡は有効であるといわなければならない。

よつて被告らはそれぞれ共同債務者として原告に対し各々元金九万円及びこれに対する遅延損害金を支払うべきであるから、原告の請求はすべて正当であるとしてこれを認容した。

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